ためになる!?ぶつだんやさんコラム
2020年4月21日
コロナ危機と葬送・供養
- お仏壇と墓石の太田屋
- 太田博久(代表取締役)
父は、私一人で送ります。
地元企業の創業者で会長職にある方のお葬式。喪主を務められるご子息の社長が、そうおっしゃいました。
政府の緊急事態宣言が全国に拡大され、新型コロナウイルス感染拡大の防止が急務な現状です。私たち葬祭業者ができる限り万全な対策を講じるのはもちろんですが、それでも人が集まるお葬式の場で感染する危険性を100%否定できない以上、喪主様やご遺族が心配なさるのは当然です。会社を預かる社長として、自分以外のご家族も、そして社員の方々も、父の、会長のお葬式で万が一の感染リスクに晒すことはできない。この社長が喪主として、ご家族やご親族も、社員の方々も参列させずに自分一人で見送る決断をされたお気持ちは、同じ経営に携わる立場として、私にも十分に理解できます。
「コロナ危機」とも言えるこの異常事態の中で今、お葬式でも「異常事態」が起きています。故人様はご家族やご親族にとっても、共に生きてきたご縁のある方々にとっても、かけがえのない大切な方です。それぞれの関係性の中で、どなたも納得できるお別れをなさりたいお気持ちがあるだろうと思います。しかし、感染拡大防止のために、ご親族でさえもご遠方からの移動をお願いするわけにはいかない、親しかった方々にもお別れに来ていただくわけにはいかないという状況にあり、お葬式は極めて限定された方々だけで執り行われています。残念ながら、ご縁ある皆様と故人様のご生前の姿を共有し、一緒に様々な思いや悲しみを分かち合いながらお別れすることも叶わない状況です。
もちろん、これはリスク管理という点では当然必要なことですし、それを踏まえて私たち葬祭業者もご遺族と綿密にご相談し、感染防止策を最重要課題として運営している結果です。ただ、ご遺族をサポートする身として、とても気になっている事柄があります。それは、お葬式(お通夜)を起点に、今後ご縁ある方々が向き合うことになるグリーフワーク(喪失の悲しみや痛みを癒す作業)に影響が出てしまう可能性です。
かけがえのない大切な方を亡くされることは、ご家族をはじめ親しい方々にとっては、その方の人生の中で最も大きな悲しみや痛みを覚える出来事です。その悲しみや痛み(グリーフ)は、そう簡単に癒えるものではないでしょう。どれほど悲しんでも、大切な方が亡くなってしまった事実は変えることができず、時間をかけながら、少しずつ、一歩ずつ、その事実を受け止め、受入れ、それぞれのお気持ちの中で位置づけていくしかありません。お葬式とその後に続くご法事、日常的にお仏壇に手を合わせたりお墓お参りしたりすること…それらは、ご遺族のグリーフワークと呼ばれる行為をサポートする場であり、その起点になっているのがお葬式だと思います。
故人様と親しかった方々が一堂に会し、それぞれの思い出を語りながら悲しみを共有する。その場を通して、また改めて故人様を思い浮かべ、かけがえのない関係性に思いを致す。あんなことがあった、こんなこともあった…残念で悲しいけれど、あの人と関わり合って一緒に生きた時間は確実に存在したんだ…。お葬式は、その場を共有する一人ひとりの方々にとって、故人様の死という事実を受け止め、受け入れていく最初の大切な機会だと思います。
その場が奪われてしまったとき、そのために悲しみや痛みを表し共有する機会が失われてしまったとき、ちゃんとお別れができなかったという思いが、その方々のグリーフワーク(悲しみや痛みを癒していくプロセス)に無意識に影響が出てしまわないだろうか…それを危惧しています。
お葬式を感染拡大の場にしてはならない!
弊社も、そして全国の葬儀社も、今その強い意識と具体的行動でお葬式を執り行うサポートに努めています。しかし、それだけではカバーし切れない、ご遺族のグリークワークをサポートする重要な役割が残されています。
この現状をしっかり受け止め、私たち葬送や供養に関わる事業者は、「異常事態の中でのお葬式」を考え、様々なサポートをご提案し、専門家として具体的な行動を積み重ねていかなければならないと思います。