ためになる!?ぶつだんやさんコラム
2020年3月12日
お葬式はいらない?お仏壇もいらない?
- お仏壇と墓石の太田屋
- 太田博久(代表取締役)
お葬式なんて、しなければよかった…。お仏壇なんて、買わなければよかった…。
「0葬(ぜろそう)」「墓じまい」「仏壇じまい」等々、様々なメディアが最近の葬送や供養に関する急激な変化を話題にしています。超高齢化等の社会の変化と暮らしの変化、それに伴う価値観の変化が背景にあるとはいえ、その手の話題が取り上げられない日はないほどです。そして、その内容は「葬送や供養は無駄なもの」とのニュアンスを日に日に強めているように思えます。
ここ最近まで私たちが当たり前だと受け止めてきた葬送や供養の形態は、もちろん時代の変化の中で形づくられてきたものです。決して、いつの時代でも当たり前で、同じものであるはずがありません。時代が変わり、社会が変わり、暮らし方が変わり、価値観が変われば、変化するのは当然です。葬送や供養に関する商品サービスに携わる私たち業者は、その変化に応えてお葬式を変え、お仏壇を変え、お墓を変えていかなければならないことは確かです。
ただ、これほどまでに「葬送も供養も無駄なもの」というニュアンスが強まってくると、その価値を信じている私は、どうしても「ちょっと待って…」と言いたくなってしまいます。なぜなら、これまで多くの方々のお葬式をお手伝いしてきて、地域の様々なお宅にお仏壇を納め続けてきて、いろんな形態のお墓をお引き渡ししてきて実感する「事実」があるからです。それは、お葬式をなさったご遺族から、お仏壇をお届けしたお宅のお客様から「お葬式なんて、しなければよかった」「お仏壇なんて、買わない方がよかった」というお声を聞いたことがないという事実です。これは、他の同業者の皆さんに聞いても、共通する事実なのです。
もちろん「もう少しお葬式の費用が抑えられたら…」とか「もっと違うお仏壇の方がよかったかも…」といった金額や商品に関するお声がないとは申し上げません。また残念ながら、弊社の対応が不十分でご不満を抱かせてしまうケースも皆無とは言えません。ただ、お葬式をなさったこと自体を、お仏壇を購入して手を合わせるようになったことそのものを「不要だった」と否定されるお客様には、本当に一度も出会ったことがないのです。この事実と、昨今強まっている「お葬式も、お仏壇もいらない」というニュアンスとのギャップが、私にはどうにも不思議で、残念でならないのです。たとえそれがどんな形態であったとしても、お葬式もお仏壇もお墓も、かけがえのない大切な方を失ったときには必ず伝わる価値を持つものなのだ、と改めて申し上げたくなるのです。
その姿を目にすることも、声を聞くことも、肌に触れることも実際にはできなくなってしまった大切な方。強く深い痛みと悲しみを抱えながらも、時間の経過とともに少しずつその事実を受け止め、受入れ、大切な方を新たな存在として心の中に位置づけ直していく。生前とは違い、声は聞こえないけれど語りかけることができ、姿は見えないけれど見守っていてくれていると実感する存在。その実感を得ることが、葬送や供養を経験して初めて伝わる価値なのだと思います。その痛みと悲しみを経験した後には、自分自身が「大切な存在を新たに抱えた自分」へと生まれ変わっているとも言えるでしょう。
一昨年に父を亡くし、私も実感していることがあります。それは、父は今、生前とは違う存在として私の心の中に生き続けているということです。生前は常に、私にとっては父親であり、経験の違いを前提にいつも上からもの申す存在でした。最近では、会社の会長と社長という立場で、気持ちや考えを理解し合う部分がありながらも、ある意味ではライバルでもあり、お互いに意地を張って言い合うこともある微妙な距離感の存在でした。今も後悔するのは、体調不良を気にしてばかりいる父の気持ちを理解してあげられなかったこと、そして臨終の際に「お父さん」なのか「オヤジ」なのか「会長」なのか、何と呼んだらよいのか戸惑うばかりで、しっかり声を掛けられなかったことです。(さすがに、これには自分でも驚きました。)しかし、お葬式を通して、改めて父との歳月を思い起こし、ご縁のあった多くの方々のお気持ちに触れ、悩みながらも懸命に生きる同じ人間として、父を捉え直すことができました。そして、お墓に納骨し手を合わせ、お仏壇に向かい、心の中で毎日語りかけるようになると、私にとっての父は、いつも必ず力を貸してくれる、100%見守り続けてくれる存在へと変化していることを実感するのです。
経験しないと実感できない価値を伝えることは、とても難しいことです。でも、お葬式をお手伝いし、お仏壇をお届けし、お墓を建てさせていただいた多くのお客様の事実を胸に、時代の変化やお客様の変化にお応えしながら、私が信じる葬送や供養の価値をお伝えする努力を続けていきたいと思います。