ためになる!?ぶつだんやさんコラム

2021年8月29日

弔事用の不祝儀袋(のし袋)表書きの書き方について~仏事編~

  • お仏壇と墓石の太田屋
  • 太田博久(代表取締役)
仏事 弔事 のし袋 書き方

お葬式・ご法事など、弔事に関してご遺族へ金品を差し上げる際に使用する不祝儀用のし袋。この表書きをどう書けばよいのか、またお寺様に喜捨する際(お布施)にはどうなのか…お客様から度々お問い合わせをいただきます。

経験する機会の決して多くはない不祝儀に関する弔事用のし袋の表書きについてご紹介します。日本の風土や習慣の中で、長い年月の間に育まれた「ルール」を知って、人と人とのお付き合いに活かしたいものです。

弔事用(不祝儀)と慶事用(祝儀)のし袋はどう違うのか

まずは基本となる、弔事用と慶事用のし袋の違いを知っておきましょう。

一口に「のし袋」と言いますが、のし袋には「のし(熨斗)」と「水引(みずひき)」の要素があります。弔事用にはなく、慶事用にだけある要素が「のし(熨斗)」です。また「水引」は、その「結び方」や「色」で役割が変わります。

のし袋 弔事 慶事

「のし(熨斗)」とは

「のし(熨斗)」は鎌倉時代に始まったとされる、武士の出陣や凱旋の時を祝う山海の珍味、その代表品であった「のしあわび」に由来します。この「のしあわび」は保存が効くので、お祝い・もてなし・贈答の最適品とされ、広く一般に普及しました。後年、これがお祝いの金品に添える儀礼となり、また現物の「のしあわび」に代わって、それをあしらった紙工品が生まれました。それが直接印刷されるようになったのが現在の慶事用「のし袋」です。慶事用のし袋の右上に付いているのが「のし(熨斗)」です。弔事用も慶事用も双方ともに「のし袋」とは言いますが、「のし(熨斗)」はあくまでお祝いや贈答を意味する慶事用のもので、弔事用(不祝儀)には「のし(熨斗)」は付いていないという違いがあります。

「水引(みずひき)」とは

「水引」は、飛鳥時代の遣隋使小野妹子が帰朝した際に、隋からの賜り物を献上し、その献上品に紅白に染めた麻が結ばれていたことに由来します。その後、宮中への献上品はすべて紅白の麻で結ぶ習慣となり、この風習が次第に民間に伝え広がり、現在まで形を変えながら続いています。また一説には、室町時代に起源をもち、連歌師が懐紙を綴るのに作られたのが始まりとも言われます。

「水引」には、大きく「花結び(蝶結び)」と「結び切り」の2種類があるとお考えいただければ理解しやすいと思います。「花結び」は、結び目が簡単に解け、何度も結び直せるとの意味合いから「何度も繰り返したい」との願いを込めて、一般的なお祝い事をはじめ、お礼やご挨拶、記念行事等の贈答に用います。お祝いであっても、何度も繰り返すものではない婚礼にはもちろん使用しません。

「結び切り」は、固く結ばれ解けないことから、「二度と繰り返さない」ようにとの願いを込めて弔事関係や病気見舞い、災害見舞などに用いられます。婚礼にも同様の意味合いで使用されます。「結び切り」の中には「あわじ結び」も含まれ、一度きりのお祝いや弔事に用いられます。ただし、関西では「あわじ結び」は「結び切り」と区別することもあるようです。

また「水引」には本数での区別があり、慶事では5本・7本・9本の奇数を使用します。特に婚礼は5本2束の10本が用いられます。弔事には2本・4本・6本の偶数が使用されます。これは古代中国の「偶数を陰数・奇数を陽数」とする陰陽説に由来があると言われます。

仏事での弔事用(不祝儀)のし袋の書き方

表書きは楷書で、毛筆で書くのが正式とされています。墨は慶事は濃く、弔事は薄墨で書くのがよいとされます。ただし最近は、筆ではなく筆ペンやサインペンも使用されるようになり、また弔事でも薄墨でなく濃く書くことが増え、あまり気にされることは減ってきているようですので、厳密に考えなくてもよいかもしれません。それでも、薄墨で書かれたのし袋を目にすると「この方はちゃんとわかっているな」と感じることは確かです。

通夜のお見舞い

地域によっては、お葬式とは別に通夜に「お見舞い」を持参する場合があります。その際の表書きは「御見舞い」や「通夜見舞い」と書きます。通夜のお見舞いは、元々は「病気見舞い」と同様の袋を使用していました。一説には、闘病中にお見舞いに行くことができなかったので、その気持ちを込めてお渡しするものとされています。ただし最近は、この風習に馴染みがなく、病気見舞いと同じ紅白のし袋に抵抗感を持つ方も多いことから、お葬式の香典と同様の「黒白水引の結び切り」か、通夜見舞い専用のし袋が使用されます。※通夜見舞いは地域の風習に根差していますので、仏教の宗派での違いはありません。

お通夜のお見舞いは元々「赤べり」でした。

お葬式の香典

お葬式のお香典用のし袋の表書きは、仏教の宗派によって2種類に分かれます。一般的には「御霊前」と書けば問題ありませんが、浄土真宗(浄土真宗本願寺派・真宗大谷派)では「御霊前」ではなく「御仏前(御佛前)」と書きます。これは、浄土真宗では故人はすでに仏様になられて、霊は存在しないと考えるからとされます。

のし袋の仕様は、宗派に関わらず「黒白または銀」の「結び切り」の水引を用います。また表書きを「御香典(御香奠)」とする場合や、お香典は本来「仏様(故人)に香や花を手向ける」意味がありますので、「お香料」や「御香華料」という書き方もあり、この場合は宗派による違いはありません。

お金を包む香典ではなく、品物(線香・ローソク・果物等)を供える場合には「御供」と書いて差し上げればよいと思います。

のし袋 仏事 弔事 水引

 

法事の香典

ご法事での香典は、お葬式と少し異なる書き方となります。先程記したように、浄土真宗では亡くなられてすぐに故人は浄土で仏様になると考えますが、他の宗派でも四十九日を機に仏様になるとされますので、ご法事での表書きは「御仏前(御佛前)」とします。ご法事で使用するのし袋の水引は、お葬式と同様の「黒白または銀」か、「黄白」の「結び切り」の水引を使用します。

またご法事でお金でなく品物を供える場合には、お葬式と同じく「御供」と書きます。水引も「黒白または銀、あるいは黄白」の「結び切り」にします。

水引の「黒白・銀・黄白」は、一般的にはどの色を選んでも問題はありませんが、地域による違い(習慣)は若干あるかもしれません。

香典返しの表書き

香典を差し上げる立場ではなく、香典をいただいた遺族側が香典返しをする際には、「黒白または銀」の「結び切り」の水引の様式ののし紙(熨斗紙)に「志」と書いてお渡しするのが最も一般的な形です。ご法事での場合も同様です。

のし袋 お布施

寺院へのお布施の表書き

お葬式でもご法事でも、寺院への御礼の意味も込めて差し上げるお布施は、一般的には「黒白・銀・黄白」の「結び切り」の水引のし袋に「御布施」と書けばよいでしょう。ただし、寺院によっては「御戒名料」や「御膳料」など、ご住職のお考えや檀家会の規則等で少し詳細に分けて書く場合もあります。より確かな方法としては、寺院に確認していただくことをお勧めします。参考までに、私の菩提寺は通夜からお葬式までの間に「黄白の結び切り」水引に「御法礼」と書き、それぞれの儀式の詳細な区分に応じて10種類の「御法礼のし袋」を用意しました。

仏事での弔事用のし袋についてご紹介しましたが、水引の色や表書きは地域によって若干の違いはあるかと思います。一般的な形を頭に置いていただきながら、それそれの地域の習慣も考慮してお役立てください。