ためになる!?ぶつだんやさんコラム
2021年6月22日
人形供養祭 ~古い人形の処分について~
- お仏壇と墓石の太田屋
- 太田博久(代表取締役)
亡くなったお婆ちゃんが大事にしていた人形なんだけど…そろそろ処分しなきゃと思ってね。
弊社の人形供養祭にお越しになった、70歳代と思しき女性がそうおっしゃっていました。このお客様のご年齢から想像すると、お婆様が亡くなられた後も、ずいぶん長い間、その人形の処分について悩んでいらっしゃったのでは、と思います。
毎年2回、弊社では会員様や地域のお客様へのサービスの一環として、葬祭会館での人形供養祭を実施してきました。昨年は新型コロナウイルス感染防止の観点から開催を見送ったため、今回の人形供養祭は約1年ぶりの開催となりました。会員の皆様を長くお待たせしてしまいましたので、感染防止策をしっかり講じて実施しようと、通常は葬祭会館内の祭壇にお預かりした人形を飾るのですが、今回は屋外の駐車場に設営したテントに祭壇と焼香所を設け、ドライブスルー形式にて開催しました。
「今度はいつやるの?」とのお問い合わせを多数いただいていたこともあり、小雨が降り続く天候でしたが、およそ350名様がお越しくださり、約2,000体の人形をお預かりしての人形供養祭となりました。
ぬいぐるみ、雛人形、五月人形などなど、様々な表情を持った人形が持ち込まれ、受け取った弊社スタッフが祭壇に飾ると、そこに向かって皆様が手を合わせお焼香してお帰りになります。短時間に済ませてさっとお帰りになる方、じっと手を合わせたまましばらく眺めている方、人それぞれのお姿が見受けられましたが、同時に人形と共にあった暮らし、その思い出、またその背景に重なる大切な方の姿…人それぞれの思いも感じられました。
人形の受付時間終了後、地元寺院のご住職にお経を上げていただき供養祭を執り行いました。例年は希望される会員様には供養祭にご参列いただくのですが、今回は弊社スタッフだけで参列して手を合わせてご供養しました。
供養祭の最後に、ご住職から「草木国土悉皆成仏(そうもくこくどしっかいじょうぶつ)」とのお話がありました。草木や国土といった心を持たない「モノ」にも仏性(ぶっしょう)すなわち仏の心があり、生き物と同じように成仏(仏になる)することができる。日本の仏教ならではの、独特で尊い考え方だと思う、というお話でした。
針供養、筆供養、そろばん供養…思えば、私たちの日本には「モノ(道具)」を供養する風習が他にもあり、現代でも「普通に」行われています。米国メジャーリーグでも大活躍したイチローさんも、その野球用具の取り扱い方の丁寧さが話題になったこともありました。一般的には心を持たないとされる「モノ」にも精神が宿り、丁寧に扱うことを大切にし、その寿命が訪れた際には供養するというのは、山川草木すべてに魂が宿ると考える八百万の神の精神を、今も私たちが受け継いでいることの表れなのかもしれません。
最近はお預かりした人形を、供養祭の中でお焚き上げすることは叶わず、供養後に廃棄物として処理業者に持ち込むことにはなります。それでも、そうする前に、お使いになった皆様が手を合わせ感謝とお別れの気持ちを表し、お預かりした私たちもその思いを想像して手を合わせて供養する。僅かな時間ではありますが、これも広い意味での「日本的霊性」の表現のひとつかもしれません。祭壇に飾られた人形の1体1体と目を合わせながら、そんなことを考えていました。
今回は小雨が一日中降り続く中での人形供養祭となりましたが、お待たせしてしまった会員の皆様が大勢お越しくださったことで、私の心も少し晴れた気がします。