ためになる!?ぶつだんやさんコラム

2021年5月31日

学術的に裏付けられる「葬送供養の力」

  • お仏壇と墓石の太田屋
  • 太田博久(代表取締役)
お釈迦様

『死別の悲嘆(グリーフ)が深刻なほど、遺族の生産性低下、医療費が高くなる傾向』

これは、葬儀業界情報誌に掲載された記事の見出しです。

「生産性」や「医療費」という言葉にちょっと違和感を持ちましたが、記事を読んでその理由がわかりました。

東北大学による調査結果の発表

この記事は、家族や友人との死別による悲嘆が、遺族にもたらす精神的・身体的な影響および医療福祉に依存する傾向を調査し、その結果を東北大学が昨年9月15日に発表した内容に基づいています。

京都大学と東北大学の教授らの研究グループが、日本人の遺族に対する調査を通じて、死別悲嘆が原因で医療福祉依存となる兆候やその特徴を特定し、どのような活動や介入が遺族を病的悲嘆から守ることができるかを研究していて、2018年の秋から、2~8カ月以内に家族を亡くした240世帯に対して行ったアンケート調査を分析して明らかになった結果とのことです。

調査の動機は以下とされています。

日本はまさに高齢者の「多死時代」に突入しようとしていて、十数年も経たないうちに日本人のほぼ全員が家族や友人との死別に直面し、その死別悲嘆は日本社会に多大な影響を及ぼす。具体的には、生産と消費の低下、身体的・精神的な不調や疾病、医療福祉への依存などが予測されている。この問題について欧米では一定の研究蓄積があるのに対し、日本は遅れをとっている。日本の全人口の中で、どのような遺族が最も死別悲嘆による打撃を受け、自立が困難になるのか、どのような死生観や葬送儀礼、社会支援等が遺族の心を支え、医療福祉依存を軽減できるのか、一刻も早く解明する必要がある。

「葬送儀礼は大切な役割を果たしている」という調査結果

今回の調査で明らかになった結果は、以下の3点だそうです。

・死別悲嘆が深刻なほど生産性が落ちて、仕事の病欠が増え、精神的・身体的な疾患を抱え、より多くの医療福祉に頼る(医療費がかかる)傾向がある。

・葬送儀礼に満足し、健全な形で死者との関係を保てる人には、上記のような傾向(生産性低下や医療福祉依存)が低く、逆に葬送儀礼に不満を抱え、死を受け入れられない遺族ほど、後々精神的・身体的な不調をきたし、医療福祉に依存する傾向がある。

・もともと低所得層の遺族や収入が激減した遺族では、生産性低下や投薬量の増加傾向がある。ただし、葬送儀礼にかかる費用が高いと回答したのは、低所得層の遺族ではなく、葬儀を省略したり密葬にしたりした遺族。葬送儀礼にお金をかけなかった人々が、長期的には医療福祉に頼ることになり、多くの医療費を支払う傾向にある。

この結果を受けて、現時点で考えられる予防的支援としては、収入が激減した遺族に対する公的な資金支援や、人手不足分野への雇用奨励が考えられる。あるいは、英国が行ってきたような低所得層の葬儀費の公的負担も、後々の疾病などを防ぎ、悲嘆軽減に役立つことが予測される、と記されています。

日本社会では、伝統的な葬送儀礼や法事などを通じ、遺族は死別悲嘆を克服してきたことが確認されている一方で、核家族化あるいは経済合理性という名の下で密葬や直葬が増え、遺族の悲嘆が緩和されない事例が多くみられ、研究グループは「新型コロナウイルス感染が広がる現在では集会を行うのは難しいが、一連の葬祭行事は大切な役割を果たしているように思われる」と述べているとのことです。

ご遺族の痛みや悲しみに日々接し、葬送や供養の仕事に長年携わっている私は、お葬式やご法事の場が、お仏壇やお墓に語りかけ手を合わせる行為が、ご遺族の死別の悲嘆を慰め癒し、緩和する力を持つことを実感し、その力を信じています。その実感が学術的にも裏付けられたようで、この調査結果にとても勇気づけられる気持ちです。

研究グループは、今後も大規模な調査とその分析に基づき、有益な予防対策を解明する予定だそうです。今後の研究成果を大いに期待したいと思います。