ためになる!?ぶつだんやさんコラム
2021年5月25日
盆提灯(ぼんちょうちん)のこと、その選び方などをご紹介します。
- お仏壇と墓石の太田屋
- 太田博久(代表取締役)
日頃の仏壇店に対しては、少々地味な印象をお持ちの方も多いかと思いますが、お盆が近づくと少し店内の様子が変わります。盆提灯(ぼんちょうちん)がたくさん陳列され、そのひとつひとつに明かりが灯り、ちょっと明るく華やかな雰囲気に包まれます。
私には見慣れた光景ですが、それでもやはり普段とは違う店内の雰囲気に夏が、お盆が近づいている実感を持ちます。1年の中で私が最も好きな仏壇店の姿に変貌する時期です。
盆提灯は地域の風習や宗派の違い等により、よく飾られる地域、あまり飾らない地域、天井に吊るすタイプが多い地域、置くタイプが主な地域…様々な違いが見られます。
弊社の信州長野県は吊り下げ型の提灯がほとんど見られず、置き型提灯を主流に飾る地域です。また全国の中でも比較的多く盆提灯が使われる地域かと思います。
他の地域とは少々異なる点もあるかとは思いますが、信州長野県の盆提灯事情をご紹介します。お盆を迎えるにあたり、特に初盆をお迎えの皆様に参考にしていただけたら幸いです。
盆提灯とは
そもそも盆提灯は、なぜお盆に飾るのでしょうか?
お盆には、かけがえのない故人が、ご先祖が、彼岸(浄土)の世界から帰ってくる時期とされます。その故人やご先祖が道に迷わず家に帰って来られるよう、その道案内や目印としての明かりを灯す、それが盆提灯とされます。
昔はお盆に焚く迎え火や送り火の際に使用する提灯だったようですが、次第に電球の明かりに変わり、現在の形の盆提灯となっています。
長野県内の一部では今も続いている地域もありますが、お墓で迎え火を焚き、その火の明かりを提灯に入れて家まで持ち帰り、お盆の期間は家で灯す。お盆の終わりにはその明かりで故人をお墓にお連れし、送り火を焚く。そのような使われ方をしたのが盆提灯です。
そのスタイルは、今もお墓から故人をお連れし、またお墓に送り届ける際に使用する、持ち手の付いた「弓張提灯(ゆみはりちょうちん)」として続いている地域もあります。時代劇「銭形平次」で「御用だ!御用だ!」の場面によく登場した「御用提灯」に近いイメージです。もっとも「銭形平次」をご存知の方も少なくなっているでしょうか。
そのような盆提灯ですので、玄関や軒先など家の外に吊るして飾る提灯と、家の中に置いて飾る提灯に大きく分かれます。
主に新盆で使用される吊り下げ型提灯
玄関や軒先など家の外に吊るして飾る提灯は、特にご新盆で初めて帰ってくる故人が、迷わず家に到着できるように目印として飾る意味があります。全国的には、白い無地の吊り下げ提灯「白紋天(しろもんてん)」を飾る地域が多いようですが、この用途の提灯には地域性が根強く見られます。
長野県内でも地域によってかなり違いがあります。私の暮らす諏訪地域では、木製の「三月灯籠(みつきとうろう)」を軒先に飾ります。
家の中での盆提灯の飾り方
家の中での盆提灯の飾り方にも、大きく2つの方法があります。
お仏壇で盆提灯を飾る
浄土真宗本願寺派(お西)と真宗大谷派(お東)の浄土真宗と呼ばれる宗派の盆提灯は、お仏壇の前や脇に飾ります。
浄土真宗では、お盆も含めたお葬式やご法事など仏事の場は、私たちが仏教の教えに触れ学ぶ場とされます。そのため他の宗派に見られるような盆棚(ぼんだな)をお仏壇と別に特別に用意することなく、普段お参りしているお仏壇をきれいにし、お盆用に飾りつけ、その前や脇に盆提灯を飾ります。
盆棚(ぼんだな)で盆提灯を飾る
浄土真宗以外の他の宗派では、お仏壇とは別に「盆棚」を設け、お盆期間に故人やご先祖をお迎えし祀る場所とするのが一般的です。盆棚は「精霊棚(しょうりょうだな)」と呼ばれることもあります。
盆棚の形も地域で様々ですが、長野県内では3尺3段(幅約90㎝)の祭壇を盆棚として使用するのが通常です。その段の上に小型の提灯を、前や脇に大きめの提灯を置きます。
置き型盆提灯の種類
畳や床の上に置くタイプの「置き型提灯」にも、今はいくつかの種類があります。家のどこに置くのか、その状況によって選んでいただければよいと思います。
最も一般的な盆提灯「大内行灯(おおうちあんどん)」
多くの皆さんが盆提灯と聞いて思い浮かべるタイプが、最もオーソドックスな形の「大内行灯」かと思います。
この提灯は3本の足と、丸い火袋(ひぶくろ)が特徴です。火袋とは、明かりを覆う丸い袋の部分を指します。一重または二重、素材が和紙のもの、絹張のものといった種類があります。
長野県では、最近は絹張で二重の火袋タイプが主流になっています。
また、大型で無地の火袋に家紋を入れるタイプが根強い人気の地域や、草花や山水などの絵柄入りの提灯、絵柄入りに家紋を入れるタイプが多い地域など、地域性や好みによって使い分けられています。
家紋はそのお宅によって微妙に差異があったり、家紋入り提灯の製作にある程度(1~2週間)時間がかかる場合もありますので、早めに依頼するのがよいと思います。
動きのある明かりが美しい盆提灯「回転灯(かいてんとう)」
同じ置き型提灯でも、点灯すると回転する筒を火袋の中に備え、明かりが動くことで美しく華やかな印象を醸し出す特徴をもつ「回転灯」があります。長野県ではあまり使用されませんが、地域によっては多く使われることもあるかもしれません。
細長い筒状の盆提灯「住吉提灯(すみよしちょうちん)」
置き型提灯で最近とても人気があるのが「住吉提灯」です。元々の住吉提灯は、新盆行事が盛んな九州博多の住吉町で使われていた盆提灯で、円筒形で細長く、盆棚の両脇に一対飾る「吊り下げ型」の提灯でした。それが徐々に広がり、最近は「置き型」の住吉提灯が作られるようになりました。
同じ置き型の大内行灯と比べると組み立てや片付けの手間がなく、細長い形状で場所を取らないことが特徴です。以前から住吉提灯を使用していた九州をはじめとする地域では、今でも吊り下げ型が主流かとは思いますが、置き型の大内行灯が主流の長野県では、この置き型の住吉提灯の人気が高まっています。
この置き型住吉提灯も、大内行灯と同様に無地の家紋入りや、絵柄に家紋入り等の種類があります。また中には、その細長い筒型の形状を活かして故人のお戒名を入れられるタイプもあります。
暮らしの変化に合わせたモダンなタイプの盆提灯
最近の生活事情の変化に合わせて、盆提灯もそのスタイルを変えつつあります。
最近の住宅事情に合わせて、比較的小型の提灯が増えてきています。従来の盆提灯のような飾り方もできますが、コンパクトなサイズですので、盆棚の段の上に飾ることもできます。
お盆に提灯として飾るだけでなく、普段の暮らしの中での「明かりのインテリア」として使用していただいてもよいかと思います。
この写真のように、盆提灯というよりも、盆棚を飾る「明かりのお花」という趣きのものもあります。お盆はもちろんですが、1年中お仏壇に飾ってもよいかもしれませんね。
盆棚を置くと、周囲に提灯を飾るスペースがなくなってしまうというお宅では、上の写真のようなコンパクトでモダンな形状の提灯もお勧めです。
このように、盆提灯の形も飾り方もずいぶん多様になってきました。畳敷きの和室に盆棚を設え、その両脇に大きな盆提灯を一対飾る。必ずしも、そのような飾り方でなくても、それぞれのご家庭の事情や状況により提灯を、飾り方を選ぶこともできます。
小型でモダンな盆提灯を飾る事例を写真でいくつかご紹介します。
盆提灯の明かりで故人を、ご先祖を迎える…この国のお盆の行事は、ロマンティックで美しい風習で彩られています。
是非一度、私が大好きな仏壇店の姿をご覧になってください。特にご新盆をお迎えの皆様には、多くの種類の盆提灯をご覧いただき、納得できる盆提灯のスタイルを選んで欲しいと思います。
そして、今年のお盆を、かけがえのない大切な亡き方と過ごす特別で貴重な時間にして欲しいと願っています。。