ためになる!?ぶつだんやさんコラム

2021年3月15日

寺院本堂を小型にしたお仏壇。その中に込められた仏教の魅力を紹介します。

  • お仏壇と墓石の太田屋
  • 太田博久(代表取締役)
金仏壇 真宗大谷派 東本願寺

しばらく前までは、仏壇といえば和室の仏間に納めるタイプの金仏壇や唐木(からき)仏壇が一般的でした。

金仏壇とは、黒い塗りを施した上に金箔や金粉をのせて仕上げた仏壇です。唐木仏壇は、黒檀(こくたん)・紫檀(したん)・鉄刀木(たがやさん)・欅(けやき)などの木材を使用して製作された仏壇で、この2種類の仏壇が長く一般的な形として日本の各家庭に普及してきましたが、最近の暮らし方の変化を受け、モダン仏壇や都市型仏壇、現代仏壇といった小型でシンプルなデザインの「家具的な」仏壇を購入されるお宅が年々増加してきています。

それでも、仏間のあるお宅、これからも家を受け継ぐ方がいるお宅、やはり慣れ親しんだ仏壇の方が落ち着いてお参りできるというお宅、あるいは浄土真宗の方が多い地域などでは、金仏壇や唐木仏壇は今も根強い人気があります。

最近増えているモダン仏壇、都市型仏壇、家具調仏壇、現代仏壇などと呼ばれるデザインがシンプルな仏壇は、確かに生活シーンに溶け込みやすく、違和感なく部屋に納めることができます。でも、あまりにもシンプルになり過ぎて、先祖や故人を祀る仏壇としての宗教的(仏教)要素が極端にそぎ落とされてしまっていることも事実です。

そもそも家庭に祀る仏壇は、その歴史上、寺院の本堂を小型化したものとしての成り立ちを持っています。言い換えれば、サイズを変えてお寺の本堂を家庭に持ち込んだものが仏壇でした。ですので、仏壇の形を構成する様々な意匠には、寺院としての、仏教としての意味が備わっています。それら仏壇の意匠に込められた仏教の教えや歴史を知れば、金仏壇や唐木仏壇といった「従来の」「一般的な」スタイルの仏壇が持つ魅力に触れていただくことができるのではないかと思います。

私たち仏壇の販売に携わる者にとっては、この「従来の」「一般的な」金仏壇や唐木仏壇の形に込められた仏教の教えや歴史をお客様にお伝えし、お客様が「へえ、そうなの?知らなかった、勉強になった。」とおっしゃってくださること、そしてその魅力を知った上で仏壇の中の先祖に手を合わせ、故人に語りかけていただけること、それがこの仕事の醍醐味でもあります。最近の仏壇の変化でお伝えする機会が少なくなりつつある、仏壇に込められた仏教の魅力、「あなたの知らない仏壇の世界」をご紹介します。

 

<仏壇に刻まれた仏教伝来の痕跡>

約2,500年前にお釈迦様がインドで開かれた仏教。その仏教が途方もなく長い年月を経て私たちの日本にまで伝来したことはご存知だと思います。その伝来ルートがシルクロードであるとされます。シルクロードは、紀元前から東洋と西洋をつなぐ歴史的な交易路です。古代の人々が様々な物品の交易を行い、それと同時に文化や宗教の伝播にもつながりました。ヨーロッパ、アラビア、インド、中国、韓国…日本に仏教が到達するまでには、多くの地域や国々の文化的宗教的な要素が溶け込み、融合し、変容しながら日本への仏教として伝来しました。その意味では、日本は仏教伝来の終着点と言えるのかもしれません。多様な要素を融合した終着点としての日本の仏教が寺院の形に取り込まれ、それが各家庭の仏壇の形にも反映されました。

 

<仏壇の象鼻と獅子鼻>

仏壇の中心にあってご本尊を祀る宮殿(くうでん)。この柱には、象や獅子の彫刻が施されています。これを象鼻(ぞうばな)・獅子鼻(ししばな)と呼びます。

仏壇 象鼻 獅子鼻

象鼻の象は、実は白い象(白象)です。お釈迦様の誕生にあたり、母のマーヤー夫人が6本の牙を持つ白い象の夢を見て受胎したとの伝説があり、白象はお釈迦様誕生の象徴として大切にされています。(奇しくも、キリスト教のマリア様の受胎告知にも通ずるものがありますね。)その白象をあしらったものが象鼻です。東南アジアの仏教国では、今も白象が寺院等に飾られ、大切にされている様子が見られます。仏壇の中の象鼻は、仏教発祥の地インドゆかりの意匠として仏壇の中に残されています。

象鼻と交差して施されているのが獅子鼻です。この獅子は、一説にはエジプトのスフィンクスを模したものとも言われています。古代エジプト文化の要素が、今も仏壇の意匠として残っているなんて、壮大な歴史のロマンを感じさせてくれますね。

 

<ブドウ唐草や鳳凰など、仏壇の彫刻>

宮殿の柱などには、ブドウ唐草の飾り彫刻がよく見られます。このブドウ唐草の文様は、ギリシャの月桂冠を模したものと言われます。

仏壇 唐草模様

 

また欄間(らんま)や障子などの彫刻によく施されている鳥に鳳凰(ほうおう)があります。この鳳凰は架空の鳥で、古代ペルシャで疫病の原因となる害虫を食べ、人々を救ったとされています。

仏壇 鳳凰

その他にも、孔雀や天女はインドの文化、龍は中国の文化というように、仏壇の彫刻や金具、蒔絵などに描かれている様々な意匠には、悠久の時を経てシルクロードを通して日本に伝えられた仏教が、多くの地域や国々の文化・宗教を取り込んだ歴史が反映されていて、その痕跡を仏壇の中に感じ取ることができるのです。日本の仏壇の中には、実はインド・アラビア・ヨーロッパ・中国などの古の文化の香りが残されているのです。

 

<仏壇は浄土の姿を表現したもの>

寺院の本堂を小型にした仏壇は、はじめは金仏壇という形を取りました。今では部屋の雰囲気に合わないからと敬遠されることもありますが、各家庭に納める仏壇の姿は金仏壇から始まりました。

仏壇 金仏壇 宮殿

なぜ金仏壇だったのか?それは寺院の本堂もそうですが、仏壇は浄土=仏の世界の姿を表現したものだからです。仏説阿弥陀経の中に、阿弥陀如来がいらっしゃる西方浄土(さいほうじょうど)の様子が描かれた部分があり、そこには「西方浄土に楼閣(ろうかく)あり、七宝(しっぽう)をもって荘厳(しょうごん)す」と表現されているそうです。楼閣とは、高くそびえ立つような建物、現代では高層ビルにあたるでしょうか。つまり、西の方にある浄土の世界には大きな宮殿があり、七つの宝で飾られているというほどの意味です。その七宝は「金・銀・ルリ・ハリ・シャコ・シャクシュ・メノウ」とされます。その七宝の中でも、金は最も貴重で美しく、永遠不変の象徴ともされることから、浄土の世界を表す本堂に、そして仏壇に用いられるようになったと言われています。だから金仏壇だったのですね。

 

<仏壇の宮殿と須弥壇>

仏壇の中には何本もの柱に支えられた屋根のついた建物が置かれています。これが宮殿(くうでん)と呼ばれる浄土の世界の楼閣です。それを土台で支えているのが須弥壇(しゅみだん)です。下から山のように登り、中央部分はくびれた形になり、そこから上に向かって逆三角形状に登っていくような形です。

仏壇 金仏壇 須弥壇

この須弥壇は、須弥山(しゅみせん)という仏様(悟りに至ったもの)が住む山を表しています。仏教世界の中心にある山で、その高さは8万由旬(ゆじゅん)とされます。由旬とは仏教の距離の単位で、一説には1由旬が約7kmだそうです。だとすると、8万由旬は約56万km…途方もない高さですね。

仏壇 唐木仏壇 須弥壇

上の写真は唐木仏壇の須弥壇です。仏壇では、この須弥山の上に各宗派の本尊を安置します。須弥壇(須弥山)の上は、仏様の住む世界、つまり仏壇では最も大切な場所となります。

 

<仏壇内の結界としての欄干(高欄)>

仏壇をご覧いただくと、この須弥壇の上には欄干が置かれていることにお気づきかと思います。寺院や神社などでよく見かけますね。

仏壇 欄干 高欄 勾欄

この欄干は、高欄・勾欄(どちらも「こうらん」と読みます。)と呼ばれ、仏様の住む世界と私たちの住む世界、つまり清浄な世界と煩悩にまみれた俗界を分ける結界(けっかい)の役割を持っています。悟りの世界(彼岸)と私たちの世界(此岸)でもあります。ですので、この結界から先は、煩悩にまみれて生きている、悟りの境地に到達していない私たちは立ち入り禁止というわけです。

地域の風習により異なる場合もありますが、仏壇の中の欄干から上の場所には本尊や脇仏(各宗派の宗祖や開祖など)を安置し、故人の位牌はその下の段(位牌壇)に安置するのが正式だとも言われます。位牌に戒名を刻まれた故人は、仏教徒として改めて修行を積んでいる最中で、まだ悟りの境地に至っておらず、いつか須弥山の上の仏様の世界に行けますように…そんな願いも込められているのかもしれません。

仏壇 仏像 座釈迦

<仏像の半眼と障子>

この須弥壇の結界の先に安置される仏壇の本尊は、仏像の場合も掛軸の場合もあります。そのどちらの場合でも、本尊のお顔(ご面相)をご覧いただくと、目の形がいわゆる「薄目」を開けたようになっていることがおわかりかと思います。これは「半眼(はんがん)」と呼ばれる仏様の独特な目の姿です。

私たちの目は、表に現れた姿しか見ることができません。もちろん自分自身の姿を見ることもできません。(鏡を使えば見られますが、その姿は本当の自分自身とは違いますよね。)例えば、自分の心の中も、他者の心の中も全く見ることはできないのが私たち人間の目です。ところが、仏壇の中の仏様の半眼には、私たちと同様に表に現れた姿が見えるだけではなく、閉じた半分で、私たちには見えない姿を見ることができるとされます。

仏壇 仏像 障子 半眼

仏壇には扉が2枚取り付けられています。表の扉は大戸(おおど)とか雨戸(あまど)と呼ばれます。中の扉は障子(しょうじ)です。一概に決まっているわけではありませんが、夜寝る時には、仏壇の扉は閉める方がよいとされる場合があります。大戸までは閉めなくても、障子は閉めるのが風習だとされる地域があります。障子を閉めると、当然ですが私たちから仏壇の中は、本尊の姿は見えなくなります。しかし、本尊(仏様)の目は半眼です。障子が閉まって私たちからは見えなくなっても、仏様には私たちの姿が、心の中までもがずっと見えている…仏壇の中の仏様は「いつでも、すべてお見通し」というわけですね。

 

<天・地・水の仏壇の世界観>

仏壇の欄間(らんま)や障子などの彫刻、柱や扉に取り付けられた金具、金仏壇に描かれた蒔絵(まきえ)などをよくご覧いただくと、実はある特徴が見えてきます。仏壇 金具 鳳凰

仏壇の上の方には空を舞う天女や鳥や雲といった天にまつわるデザインが多く施されています。仏壇の胴体部分、中央付近をあちこちご覧いただくと、草木や建物、人物といった地上世界に関連する意匠が多く見られるでしょう。そして下方に目を移すと、湖沼や水鳥、蓮(はす)などの水にまつわる事物が目に入ることと思います。

仏壇 蒔絵 金仏壇

上は空を、中央は地上を、下方は水を、仏壇は大きく「天・地・水」の3つの世界で構成されていることが、彫刻、金具、蒔絵の意匠からわかります。仏壇には様々なデザインが施されていますが、それらはバラバラに、単に見た目だけで位置づけられているわけではないのです。とはいっても、近年はデザインが重視されるようになり、このような姿を確認できる仏壇は少なくなってきていますが。

 

ご紹介してきました「あなたの知らない仏壇の世界」は、いかがでしたでしょうか?

最近は大きくて重厚過ぎる姿が敬遠されがちな「従来の」「一般的な」金仏壇や唐木仏壇ですが、その中に込められた仏教の教えや歴史の「残り香」を感じていただけたものと思います。

実家の和室の仏間に納まっていて、これまであまり見たこともお参りしたこともないという方も多いかもしれませんが、仏壇にも「面白い」要素が実はたくさんあるのです。このような仏壇の魅力を是非知っていただき、改めて見直していただけたら幸いに思います。