ためになる!?ぶつだんやさんコラム
2021年3月8日
喪失の痛みや悲しみ(グリーフ)と向き合う
- お仏壇と墓石の太田屋
- 太田博久(代表取締役)
宮城県東松島市で白骨化したご遺体が見つかり、DNA鑑定と歯型の照合から、東日本大震災で行方不明になっていた女性であることが判明した、との報道がありました。女性のご遺族が「見つけていただいた方に感謝したい。気持ちに整理をつけ、前を向くことができる。」と語られた言葉が強く印象に残りました。
東日本大震災から10年。まだ2,500名以上の方々が行方不明だと聞きます。女性のご遺族の言葉を思うと、未だにご遺体も見つからないご家族はどのようなお気持ちなのでしょうか。
10年目の3月11日を迎えるにあたり、あの日から様々な喪失の痛みや悲しみ(グリーフ)を抱え、それと向き合ってきた方々の体験談がメディアで取り上げられています。かけがえのない祖父母や親兄弟を失った方、大切な友人を失った方、住み慣れた家や街を失った方、失われたものばかりでなく、自分が生き残ったことへの罪悪感すら抱く方。
かけがえのない大切な人たち、その人たちと共に暮らした場所、そして、それまでの暮らしの中で積み重ねられた人生そのもの。それらすべてが失われたまま10年が過ぎ去ってしまった現実が伝わってきます。
その体験のひとつひとつに接する度に、まだ10年なのか、もう10年なのか…ご自身が抱えている喪失の痛みや悲しみを受け止め、受入れなければと無理をして必死に努力してきた姿を想像し、向き合うことができずに痛みと悲しみに押しつぶされそうな年月を過ごしている姿を想像し、皆さんがそれぞれ、ご自分の気持ちに何とか折り合いをつけ、死別により二度と会うことの叶わない大切な故人や、帰ることができない思い出の詰まった故郷といった「かけがえのない存在」を改めてもう一度心に刻み直し、その存在を抱え込んだ新しい自分として前を向いて進もうとするお一人お一人の姿に強い共感を覚えます。
東日本大震災のような突然の大きな災害の場合はもちろんですが、災害ばかりではなく、遺された方にとって、ご縁あって共に生きてきた方々にとって、愛着を持つ方々の死は、どんな死別も不条理なのだと思います。
なぜ今なのか、なぜこの人なのか…。どれほど高齢であっても、どれほど覚悟をしているつもりでも、受け入れがたい死別の痛みや悲しみに直面する方々が、残念ながら日々大勢いらっしゃる現実があります。
葬送や供養の仕事に携わる人間の一人として、お葬式の場でご遺族が、ご縁あって共に暮らした地域の方々や一緒に生きてきた友人の方々がその痛みを共有すること、ご法事の場で思い出話と共に悲しみを分かち合うこと、お仏壇やお墓に手を合わせ語りかけること、そしてその葬送や供養のプロセス(グリーフワーク)が、少しでもお一人お一人それぞれが抱える痛みや悲しみに向き合っていくための意義あるサポートにつながるよう、改めて努力したいと思います。
いつかきっと、痛みや悲しみを抱える方々が気持ちに整理をつけ、前を向いて歩いていける日が来ることを願って。