ためになる!?ぶつだんやさんコラム
2021年2月23日
暮らしが変わればお仏壇も変わる。多様化する最近のお仏壇事情を紹介します。
- お仏壇と墓石の太田屋
- 太田博久(代表取締役)
モダン仏壇、都市型仏壇、家具調仏壇、現代仏壇。最近の仏壇店に増えている、このような仏壇の呼び名を耳にされたことがあるでしょうか。(ちなみに「現代仏壇」という名称は、あるメーカー1社の登録商標です。)
仏壇って、何となく奥の暗い和室にあって、大きくて近寄りがたいし、仏壇店も威圧感があって入りにくい…。そんな印象を持つ方も、まだまだ多いのかもしれません。でも、仏壇も仏壇店も、今はすっかり変わっています。
親子3代が1軒の家に同居し、同じ地域で暮らし続けていくことを前提に、お仏壇やお墓を引き継いで守っていく。そのような暮らし方が極めて少なくなった現代社会では、お仏壇やお墓のあり方も当然変化してきています。
「仏壇を買い替える」といえば、小さな仏壇から大きく高品質の仏壇に買い替えることを表していた時代から、むしろ大きな仏壇を処分して小型の仏壇へ買い替えたり、仏壇を処分して買い直さない(仏壇じまい)という時代にさえなってきました。
もちろん、ずっと手を合わせてきた従来のような「仏壇らしい仏壇がいい」という方も当然いらっしゃいます。従来の形の仏壇は、寺院の本堂を小型化した姿でもあり、仏教的な意味合いが彫刻や金具や蒔絵(まきえ)に、須弥壇(しゅみだん)や欄干(らんかん)等の意匠に込められています。彫刻のデザインには、お釈迦様の誕生にちなむ白象、古代エジプトやギリシャ文化の反映とされる獅子やブドウ唐草といった意匠が施されています。金具や蒔絵には、中国大陸の文化等の影響を受けた鳥や木や草花が上中下それぞれの場所に配置されています。また中央の須弥壇は仏教の教えにある須弥山(しゅみせん)という山を表し、その上方に浄土の世界(彼岸)があり、欄干は浄土の世界と煩悩にまみれたこの世(此岸)を仕切る結界(けっかい)として置かれている…このように従来の仏壇の形には、インドでお釈迦様が説いた仏教が長い時間をかけて日本にまで伝播して独自の姿で定着し、その形が寺院に反映され、仏壇にも受け継がれていることが見て取れます。その姿を通して仏教に触れ、仏教伝播の歴史に思いを馳せ、仏壇を知ってお参りしてもらえるように各意匠の仏教的な意味を説明することは、私たち販売者側の醍醐味でもあります。それでも、暮らし方の変化に合わせ、仏壇も違和感なく溶け込むよう、最近はよりシンプルな姿へと変わり続けています。
供養文化を構成する要素のひとつでもある仏壇の形には地域性が根強く残り、全国各地で決して一様ではありません。それでも、和室の仏間に納まる黒っぽくて大きな唐木仏壇(からきぶつだん)や、金ピカで部屋の雰囲気に合わないと感じられる金仏壇は、私たちの長野県内では徐々に少数派になってきています。最近では、設置場所となる部屋のイメージに合うかどうかを重視して選ぶお客様も多く、その傾向に合わせた多様な仏壇が仏壇店に並ぶようになりました。そのように変化する最近の仏壇事情を紹介します。
<リビング等の洋間にもマッチする仏壇>
家の中から畳敷きの和室が減り、フローリングなどの洋風な部屋が増えています。また初めから仏壇を設置することを考慮した仏間を組み込んでいない家も増え、仏壇を「故人に語りかける場」として大切にしたい、できるだけ家族が故人に声をかけやすい場所にしたいと、家族が集まるリビングに置くことを希望するお客様が増えています。そのような方々に選ばれているのが「台付き」のモダンなスタイルの仏壇です。サイズ(幅・高さ・奥行)はリビングの一角に置いても大き過ぎることはなく、他の家具や床の色合いとも違和感が少なく、従来の仏壇に感じられた威圧感もない、部屋にさりげなく設置できる上の写真のような仏壇です。従来の仏壇に多く使われた黒檀・紫檀・鉄刀木(たがやさん)・欅(けやき)等の「唐木材」ではなく、オーク材やチーク材等の家具に使用される素材の仏壇が多く、形がシンプルで色合いがナチュラルな印象を与える仏壇が多くあります。お線香やローソク、仏具を収納したり、場合によっては骨壺も納められる大きめの収納スペースとなる「台付き」のモダンな仏壇は、設置場所で頭を悩ませることが少なく、柔軟に設置できる仏壇だと思います。
<他の家具の上に置く小型のモダンな仏壇>
小さな部屋で「台付き」仏壇は置くことができない、という方々に選ばれているのが小型の上置き(うわおき)仏壇です。テーブル・サイドボード・タンス・本棚などの部屋にある他の家具の上に設置してお参りできるタイプです。サイズも高さが60㎝ほどの、比較的大きくこれまでお祀りしてきた位牌も納められる大きさのものから、高さも幅も30㎝程度のコンパクトなものまで、部屋のどこに置きたいのかという希望に添って選んでいただけます。小型でシンプルなスタイルですが、宗派による本尊(仏像)や位牌を、灯香華(とうこうげ)というお参りに必要な三つの基本的な行為「明かりを灯す」「お線香を上げる」「お花を飾る」を可能にするコンパクトな仏具を飾ることも十分にできます。仏壇の変化と同時にもちろん仏具も変化していて、コンパクトな仏具、ガラスや瀬戸物で作られたナチュラルな感じの仏具、黒っぽくないピンク系の仏具、グリーン系の仏具、ブルー系やブラウン系の仏具など色合いも多様な仏具も揃っています。仏具のイメージも大きく変化していて、仏壇に合わせてコーディネイトできるほど、多種多様な仏具が揃ってきています。
<箱型ではないステージ型の仏壇>
仏壇と言えば「扉の付いた箱型のもの」をイメージする方が多いかと思います。その印象からすると、仏壇と呼ぶのがよいかわかりませんが、最近は「扉のない」ステージタイプの仏壇もあります。上の写真のようなオープンで開放感あるイメージで、もちろん他の仏壇と同じように仏具を置いてお参りすることができますが、写真立てを置いて故人の写真に手を合わせたり、故人が大切に愛用していた遺品を飾ったりという比較的自由なスタイルで、身近に故人を感じながらお参りをしたいと希望する方々に選ばれている、仏壇の代わりと表現した方がよいかもしれない新しいスタイルの仏壇です。その形からコンパクトなサイズが多く、置き場所も自由に決められ、暮らしの中に溶け込むスタイルと言えるかもしれません。
<場所をとらない壁掛け仏壇>
上の写真の仏壇は、一見すると宙に浮いているように見えます。実はこの仏壇は「壁掛け」仏壇なんです。最近はテレビも壁掛け型のものがありますが、壁に絵画を飾るように、仏壇も壁に飾れるタイプがあります。仏壇の中を照らす照明を取り付けるために壁に穴を開け、電気配線をする必要がありますが、床や家具の上などの置き場所を取ることなく、扉を閉めると、壁を装飾するオブジェのひとつのようでもあります。中には、閉めた扉に絵画や写真を組み込むことのできる仏壇もあり、そうなると正に壁に飾った絵画や写真と同じですね。上の写真の壁掛け仏壇に飾ってある仏具は透明感あるガラス製仏具、位牌はシンプルで植物の緑や美しい海を連想させるグリーン系の位牌です。仏壇仏具やお墓の仕事に長年携わってきた私がこの「壁掛け」仏壇を見ると、仏壇や仏具のスタイルが本当に大きく変わったことを強く実感します。
<仏壇と一緒にチェストをお求めになる方も>
家具店で探したけれど、仏壇と似合うチェストが見つからなかったといって、仏壇店で仏壇と一緒にチェストをお求めになる方が増えています。チェストとは、衣類などを収納する蓋付き箱型の整理タンスを指すそうですが、私たち仏壇店にとっては「仏壇を置く台」としてのチェストを揃えています。仏壇とチェストを別々に選ぶと、やはり「チェストに乗せた仏壇」をイメージしにくいこともあるのでしょう。仏壇を部屋のどこに置いたらいいのかを考えながら選んでいるうちに、チェストの上に乗せることを考えてみたら、ちょうどよいスタイルを実現できたという方もいらっしゃいます。また中には、これまでなかなか納得できるチェストが見つからなかったけれど、仏壇店でよいチェストにたまたま巡り合えたと、チェストだけを購入される方もいます。もちろん仏壇とチェストは別々に購入できますので、仏壇店には、このようなチェストが揃っていることを知っておくと役立つかもしれません。
リビング等の洋間にもマッチする仏壇、他の家具の上に置く小型のモダンな仏壇、箱型ではないステージ型の仏壇、場所をとらない壁掛け仏壇、仏壇用のチェストと、暮らしの方の変化を受けて変わり続けている最近の仏壇のスタイルを紹介しましたが、それらスタイルの変化に合わせて、デザインや色合いも大きく変化しています。
仏壇のデザインは四角い箱型の印象が強くありますが、扉付きの仏壇でも、最近は全体的にアールを帯びた柔らかさを感じるデザイン、国内仏壇メーカーだけでなく優良家具メーカーが製造する巧みなデザイン、イタリアやデンマークで製造されたヨーロピアンなデザイン等々、そのデザイン性も多様な仏壇が登場しています。
仏壇の色合いについても、多くの方々にとっては今も黒っぽく暗めの色合いのイメージが強いのかもしれませんが、鮮やかなレッド系やブルー系の仏壇や上の写真のような気品あるホワイト系の仏壇など、これまでは想像もつかなかった色合いの仏壇も増えています。
仏壇のデザインや色合いが変われば、それに合わせて仏具のデザインや色合いも変化するのは当然です。仏壇と同じように、黒っぽく決まった形の仏具ばかりでなく、シンプルなデザインの仏具や、色とりどりの仏具も多く、仏壇を選ぶのと同時に仏具も選んでコーディネートできる時代になっています。
このように変化が著しい仏壇仏具ですので、以前は多く適用された宗派による仏壇と仏具の決まり事も柔軟になってきています。もちろん地域差や寺院による違いはありますが、本尊や位牌の決まり事、仏具の最小限の決まり事を踏まえれば、かなり自由度が増し、「故人や祖先を大切に思う心」「手を合わせ語りかける心」といった、お参りする方々の気持ちを重要視した仏壇仏具のあり方へと移ってきていることを感じます。多くの方々にとって、仏壇店に行く機会はなかなか無いでしょうが、行ってみれば仏壇の様々なスタイルに、また仏具の多様なデザインや色合いに、もしかしたら想像以上に驚くかもしれません。これまでの仏壇や仏具、仏壇店に対するイメージが大きく変わるかもしれませんよ。