ためになる!?ぶつだんやさんコラム
2020年7月21日
心に残った法話~蜘蛛の糸・その後~
- お仏壇と墓石の太田屋
- 太田博久(代表取締役)
先月行なった弊社「生き物の命の供養祭」での地元ご住職の法話。心に残った二つ目の話です。
芥川龍之介の有名な短編小説「蜘蛛の糸」は多くの方がご存知かと思います。
ある日、お釈迦様が極楽の蓮池のほとりを散歩していると、はるか下に地獄の様子が見えました。そこには、犍陀多(かんだた)という名の大泥棒が、多くの罪人たちと一緒に血の池でもがいている姿がありました。犍陀多は悪行の限りを尽くした大泥棒でしたが、そんな彼でも一度だけ善いことをしていました。道端の小さな蜘蛛の命を思いやり、踏み殺さずに助けてあげたのでした。
それを思い出したお釈迦様は、彼を地獄から救い出してあげようと、蜘蛛の糸を地獄へと垂らしました。その糸に気づいた犍陀多は、これで地獄から抜け出せると、糸をつかんで懸命に登り始めます。しばらく登って下を見ると、地獄の大勢の罪人たちが、同じように糸にしがみついて登って来るのが見えます。このままだと重みに耐えきれず蜘蛛の糸が切れてしまう…。犍陀多は「これは俺の糸だ!下りろ!下りろ!!」と叫びます。すると突然、糸はぷつりと切れて、犍陀多は元の地獄の暗闇の中へ真っ逆さまに落ちていきました。それを見たお釈迦様は、悲しそうな顔で蓮池を立ち去りました。
この話の「後日談」を、地元ご住職が話してくれました。ご住職によると、師匠だった著名な仏教学者・僧侶の中野東禅という方の創作話だそうです。
また地獄に逆戻りしてしまった犍陀多でしたが、もう一度チャンスが訪れます。お釈迦様が再び地獄の暗闇の中に向けて蜘蛛の糸を垂らしてくれたのです。ただ今度は、犍陀多より先に他の罪人たちが気づき、我先にと登り始める姿を目にしたのです。犍陀多もまた登ろうとしますが、すでに大勢の罪人たちが「俺が先だ!俺の糸だ!お前は下りろ!」と醜く争いながら糸にしがみついています。
このままでは、また糸が切れてしまう…と思った犍陀多は、ふと前回の出来事を思い出し、皆に声を掛けました。「みんな、争うのはやめよう!みんなが登れるように協力しよう!」と。それを聞いた罪人たちは冷静さを取り戻し、お互いに譲り合って登り始めます。犍陀多もその列に従って、皆を励ましながら登り続けました。
すると、周囲の様子が、いつの間にか変わっていることに犍陀多は気づきます。先程まで地獄だったはずの同じ場所が、実は極楽だったと気づいたのです。
コロナ禍と称される状況が続くこの時期だからなのか、私はこのご住職の「後日談」がとても心に沁み、強く印象に残りました。受け止め方は、人それぞれかとは思いますが、皆さんはどうお感じになるでしょう。